博士と秘書のやさしい恋の始め方
作業はぐんぐんはかどって、カオスだった備品庫は清浄化(正常化?)されつつあった。

やっぱり休日出勤して正解だったと思う。電話も鳴らないし、黙々と作業に没頭することができたもの。

「失礼しまっす。山下さんのほうはどんな感じですか?」

ノックしながらドアを開けて顔を出したのは古賀先生だった。

「かなりいいペースで進んでます」

「おおーっ、これは確かに。これからは試薬の管理も楽になりそうで助かります」

「本当ですか? それはよかったです」

そもそも備品庫の役割は実験で使う試薬の管理と古い資料などの保管がメイン、なのだけど……。どういうわけか、ここの研究棟へ越してきてからずっと、まるでただの倉庫のように使われていたらしい。

引っ越しで出た行き場のないごちゃごちゃした未整理品がむやみに押し込まれて、本来は時系列やカテゴリ別に保管されるべき資料も適当にぶっこまれて訳がわからない状態に。ちなみにこれを三角さんは「地殻の変動」と呼んでいる……。

確かに整理している間も、まさに思いがけないところから、思いがけないものが出てくるという現象が頻発し、発掘作業なんてしようものなら大変だろうなと心底思った。

「田中先生と真鍋さんにも声かけてきたので、もうすぐ来ると思うんですけど。お昼、どうしましょうか?」

「あっ、もうそんな時間なんですね」

あまりにも作業に集中しすぎて時間の経過に気づかなかった。
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