博士と秘書のやさしい恋の始め方
私がちょうど備品庫の整理を始めたとき、先生はここへちょっと様子を見に来てくれた。そして「実験室のほうの立ち会いが終わったらこちらへ来るから」と約束してくれたのだった。

でも実際は、その立ち会いに思いのほか時間がかかってしまったようで……。

「そんなっ、謝らないでください。だってほら、たぶん布川先生効果だと思うんですけど、収納用品の組み立ても設置も業者さんがやってくれましたし」

「それは、そうかもしれないが……」

結果オーライにもかかわらず、釈然としないという表情の田中先生。その気持ちがなんだかとても嬉しかった。

ところで、実は私にはさっきからずっと気になっていることがあった。

田中先生が妙に大事そうに持っている段ボール。あとで捨てるにしても、とりあえずその辺の壁に立てかけておけばいいものを……。

もしかして、借用機器が入っていた箱なので返却するときまた使うとか?だからそのときまで大事に保管しておいて欲しいとか?何か特別な用途があるのかな?

「先生、その段ボールは……?」

「そうそう、そうでした。良さそうな段ボールがあったので持ってきましたが、今すぐ入りますか?」

「入りませんっ」

ぜんぜん特別な用途じゃなかった……というか、田中先生が「山下は絶対に段ボールに入る」という前提で話をする件。

「では後で?」

「今すぐも後でも入りませんっっ」

「そうですか」

まったく、先生がこんなにも人をおちょくるのが好きな御仁だったとは。

だいたい、良さそうな段ボールっていったい……。入り心地がとか、そういう意味ですか?
< 42 / 226 >

この作品をシェア

pagetop