博士と秘書のやさしい恋の始め方
「よく見たら、それも猫柄だったんですね。しかも白と黒」

先生は「遠目だと柄まではよくわかりませんでした」と、あらためて割烹着姿の私を見下ろした。

田中先生って人を見るときも、物怖じしないというか、率直というか。臆することなくじっと見るので、見られたこちらは本当にどきまぎしてしまう。

ましてこんな近い距離で、なんとなく身動きがとれない状況で。

「そうなんです。えーと、残念ながら招き猫ではないですけど」

「運命的です」

「え?」

「出会うべくして出会ったんですよ、山下さんに」

淡々とそう言った先生の表情は相変わらず、飄々としていて涼しげだった。

それでも、なんとなく心情を察することはできた。なんだか嬉しそうだなって、楽しそうだなって。

けど、私は――。

「こいつらは山下さんのところへ行く運命だったんです」

そう、運命的に出会うべくして出会ったのは先生と私ではない。

先生に気に入られているのは私ではなく招き猫だし。

なのに、私ときたら……。

さっきからどうにもこうにも、おかしな具合に勘違いをしてばかり。

はじめは一癖もふた癖もある要注意人物として田中先生をマークしていたけど、今はもう――。

私の中で田中先生は、気をつけなきゃならない人から、気になる人になっていた。


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