博士と秘書のやさしい恋の始め方
翌月曜日、いつものようにちょっと早めの出勤をした私を待っていたのは、机の上の招き猫二匹……だけじゃなかった。

なんと、その二匹の足元に2センチほどのミニマムサイズの招き猫が、白、黒、金と三匹も!!

これって、もしかして……?

「おはようございます」

「あっ、田中先生」

増量(?)された招き猫に困惑する私を見て、先生はさらりと言った。

「片付けもしてみるものですね。机の引き出しから出てきました」

言われて見れば確かに、先生の机の上が少しだけきれいになっている。土曜日、私は先生方が帰るより先に失礼させていただいたのだけど。先生、きっとあれから少し片づけたんだ……。

「あのっ、じゃあこの子もたちも一緒にお預かりしておきますね」

「白と黒はともかく、金色が実子というのは遺伝学的にどうかという話もありますが。とりあえず仔猫たちもよろしくお願いします」

真面目な顔で冗談を言い、仔猫たちのことを律儀にお願いする田中先生。

こうして話していると、ほっこりして居心地がよくて――もっと話してみたくて、ずっとこうしていたくなる。

どうしよう、どうしよう、どうしよう……。

だって、私は――むやみに恋などしないと決めたのに。

揺らいではいけない。熱くなってはいけない。勘違い、してはいけない……。

私にとって田中先生は、やっぱり“気をつけなきゃならない人”なのかもしれない。

でも……。

そうだ、おかしな勘違いをしないためにも、ここはしっかりと見極めようじゃないの。

冷静に、平らかに、客観的に。田中先生のことをもっと知れば、きっとはっきりするに違いない。先生と私の間にあるそれが、仕事仲間としての尊敬と信頼と友愛であることが。

そう、それをしっかりと認識するためにも、私は田中先生に近づいていいのだ。そうそう、知る必要があるんだもんね。なーんて……あぁ、苦しい言い訳。

「君子危うきに近寄らず」という言葉を決して知らないわけじゃない。

私は愚かな小人(しょうにん)なのです……。
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