博士と秘書のやさしい恋の始め方
白衣というのは、けっこうかさばって扱いにくい。

まして俺のような大柄な男が着るサイズであればなおのこと。

袖を通しやすいように、俺は彼女の後ろへまわって白衣を広げた。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございますっ」

いや、何もそんなに恐縮しなくとも。

申し訳なさそうに焦る山下さんは、やっぱりちょっとおもしろくて、なんだかとてもいたいけに見えた。

さて、俺と山下さんの身長差はどれくらいあるのだろう。

おそらく20センチ前後かとは思われるが――。

「私、完全に着られてますね……」

「まあ、俺が着てちょうどいい大きさなので」

ブカブカのダボダボで、袖口からかろうじて指先が見えるくらいという……。

おそらく山下さんが憧れる白衣女子(?)とは少々違うような。

しかしながら、これはこれで。いや、むしろこちらのほうが……。

「そうだ、記念に一枚撮ってあげますよ」

「ええっ。い、いいです、遠慮しますっっ」

俺の提案に山下さんは、ダブダブの袖をバタバタ揺らして両手を振った。

なんだろうなぁ、この人は。

おたおたする感じのおろしろいこと。

いちいち可愛げがあるというか、可愛がり甲斐があるというか。

「本当にいいのですか? 白衣なんてめったに着る機会がないのでしょ? 生憎ここには姿見などもないですし。せっかくですし、自分でも見たくないですか?」

「そ、それは……」

人間というのはどうしてこう“限定”だの“今しかない”というのに弱いのだろう。

「じゃあ、すみませんが一枚だけ。えーと、私のスマホは……あっ、置いてきた!?」
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