博士と秘書のやさしい恋の始め方
山下さんは驚くと同時に俺からふいと視線を逸らすと、さっと右手で口を覆った。
「…………飲んでませんよ?」
まったく、この人はまたばればれの嘘を……。
「飲んでるんですね。あ、別に酒の匂いがしたとかじゃないですよ。だいたい、就業時間後に飲んでいても問題ないじゃないですか」
「それは、そうかもしれないですけど。でも……」
「でも?」
「ちょーっと飲んだら、ちょこーっといい気持ちになって。そしたら、ふらーっとここへ来ちゃって。それでもって……田中先生のお仕事の邪魔をしてしまいました」
そうして視線を逸らしたまま、山下さんはふぅと小さくため息をついた。
「そんなことはないですよ」
実験はぼちぼち一段落というところだったし。
何より、こうしてあなたが来てくれてとても楽しかったのだから。
そして、こんなふうに誰かと過ごしている自分が、いや……過ごせている自分が、なんだかとても不思議でもあった。
「ちょうど気分転換したいと思っていたところでしたし」
「本当ですか?」
心許なげに俺を見上げる山下さん。
転びそうになった拍子に着崩れた白衣が、なんとも労しげじゃないか。
「本当です」
俺は彼女が着ている白衣の襟に手をかけると、それを気持ち整えた。
「それに、こんな弱みを握ることができました」
スマホで撮った写真を見せると、山下さんはあからさまにうろたえた。
「わわわわわわっ。ダメですよ、それはっ。私に送ったあとは絶対に消してくださいねっ。じゃないと、スマホに不具合が出ちゃうんですから!!」
「どんなウイルスですか……」
「あと、飲んでへらへらラボに来たことも内緒ですっ」
「仕方がない。そこまで言うならいいですよ、他言無用ということで」
「…………飲んでませんよ?」
まったく、この人はまたばればれの嘘を……。
「飲んでるんですね。あ、別に酒の匂いがしたとかじゃないですよ。だいたい、就業時間後に飲んでいても問題ないじゃないですか」
「それは、そうかもしれないですけど。でも……」
「でも?」
「ちょーっと飲んだら、ちょこーっといい気持ちになって。そしたら、ふらーっとここへ来ちゃって。それでもって……田中先生のお仕事の邪魔をしてしまいました」
そうして視線を逸らしたまま、山下さんはふぅと小さくため息をついた。
「そんなことはないですよ」
実験はぼちぼち一段落というところだったし。
何より、こうしてあなたが来てくれてとても楽しかったのだから。
そして、こんなふうに誰かと過ごしている自分が、いや……過ごせている自分が、なんだかとても不思議でもあった。
「ちょうど気分転換したいと思っていたところでしたし」
「本当ですか?」
心許なげに俺を見上げる山下さん。
転びそうになった拍子に着崩れた白衣が、なんとも労しげじゃないか。
「本当です」
俺は彼女が着ている白衣の襟に手をかけると、それを気持ち整えた。
「それに、こんな弱みを握ることができました」
スマホで撮った写真を見せると、山下さんはあからさまにうろたえた。
「わわわわわわっ。ダメですよ、それはっ。私に送ったあとは絶対に消してくださいねっ。じゃないと、スマホに不具合が出ちゃうんですから!!」
「どんなウイルスですか……」
「あと、飲んでへらへらラボに来たことも内緒ですっ」
「仕方がない。そこまで言うならいいですよ、他言無用ということで」