博士と秘書のやさしい恋の始め方
持田さんは「田中先生は研究員以外の職員を見下している」みたいに言っていたけれど。

それが本当ならスタッフからよく思われているはずがない。

でも、少なくとも三角さんの話しぶりからは、まったくそんな感じは……。

「あの、田中先生のしたで働くのって仕事しやすいですか?」

「そうね、私はやりやすいわよ。任せるところは任せてくれるけど、丸投げ放置ってことはないし」

「そうなんですね」

「まあねえ、説明がちょっと長いっていうか、くどいっていうか。そこのところが、ちょっとたまにきずかなってくらい」

「いかにも“理系男子”ですか?」

「そうそう。講釈大好きってやつね」

三角さんは余裕ありげに茶目っけたっぷりの笑みをみせた。

「なんていうのかな。ほら、田中先生って愛想がいいほうじゃないし、ちょっと言い方キツイときもあるし。一見すると冷たそうじゃない?」

「それは、確かに……」

決して表情豊かじゃないし。

気さくで誰でもウェルカムって感じでもないし。

でも――。

「でも、本当はすごく優しい人だと思うのよ。だって、嫌われるのを覚悟で相手のために厳しいことを言うなんて思いやりがないとできないじゃない」

そう、三角さんの言うとおり。田中先生は優しい。

不器用で、わかりにくくて、ちょっと不可解だったりするけれど、やっぱり優しい人だと思う。

「とにかくいい意味でも困った意味でも率直だから誤解されやすいところも多々あるのよね。けど、なにより責任感があるし」

「そうですよね」

「嫌われ者になりたくなくて“いい顔”ばっかりして、結局は責任取らないで逃げちゃう奴より断然いいわよ」

「確かに」

「仕事にプライドがあるし」

「そうです、そうですっ」

「潔く頭下げられるしね」

「ですよね、ですよねっっ」
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