博士と秘書のやさしい恋の始め方
自宅に帰って落ち着いてから、田中先生と沖野先生のお仲間になるべく早速ゲームを始めた。

「これはかなりやりこんでるな……」

田中先生、じゃなくて……“ニュートリノ”さんの“カミオカンデ村”の第一印象はそれだった。

イングリッシュガーデンというのだろうか? 

村には美しい花や緑が整然と配置され、まるで村全体が素敵なお庭のよう。

そして、村の真ん中にある白い大きなお屋敷がニュートリノさんのご自宅らしい。

とりあえず、今のところニュートリノさんはお留守みたい。

私は主(あるじ)の不在にほっとしつつ、ゆっくりと村を散策してまわった。

先生の村は海に面していて、どんどん歩いて端っこまで行くと白い砂浜に出た。

ところどころに落ちている白やピンクの貝殻が小さくって可愛らしい。

私のところは山間の村で海がないので、これはなかなか新鮮かも。

逆に、先生の村には山がない。

私が山でキノコや山菜を取るように、先生はここで貝を拾ったり魚を釣ったりするのかな? 

それを想像したら、なんだかとってもおもしろくて……考えただけで、ほっこりにっこり楽しくなった。

「それにしても、すごいよなぁ」

さっきゲームを始めたばかりの私の小さな村とは大違い。

田中先生は、ここまでするのにいったいどれだけ投資してきたのだろう? 

そんなことを思いつつ、帰りがけに買ってきたチョコレート菓子をもぐもぐつまむ。

しかしまあ、ニュートリノだのカミオカンデだの、先生ったらまたなんというベタベタ理系なネーミングを……。

ニュートリノって、たしか物理学とか天文学とかそっち系の用語だっけ? 分子、原子、粒子とか、そういう系?

カミオカンデというのは、そのニュートリノに関係する実験施設だか装置だかの名称だったと思うけど……よく知らない。

まったく、これまた私とは大違い。

私ときたら“タケノコ村”の“キノコ”だなんて。

買ってきたチョコレート菓子がタケノコやキノコの形をしていたからって、なんと安直な……。
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