博士と秘書のやさしい恋の始め方
出張中はずっと、夜になるといそいそとゲームの世界にログインして、彼女のところを訪れた。

ただ、どういうわけか俺が行けば彼女は留守で、彼女が来れば俺が留守。

残念ながらふたりが遭遇することはなかった。

それでも、まるで交換日記のようにメッセージのやりとりをし、そのたびにプレゼントを送り合い、とても愉快で楽しかった。

山間の村に住んでいる彼女からは山菜が届き、俺は自分が釣ったタイやヒラメ（竜宮城かよ……）を送った。

すっかり気をよくして調子にのったバカな俺は、“魚拓”などという他人からもらってもどうしようもないものまで送りつけた……。

いつぞやの山下さんではないが、機嫌よく呑んで気分が高揚していたのだろう。

ちなみに、魚拓をとった魚は出現率が極低い超レアもので、魚拓も一点モノ。

酔っていたので記憶が少々曖昧なのだが、おそらく自分の宝物でも献上したつもりでいたのだろう。

まったく……俺は猫か？　

これではまるで、捕ってきた獲物のネズミをこれ見よがしに飼い主に見せに行くそれと同じではないか……。

そんなしょーもないものを、これまた彼女が大事そうに飾ってくれていたものだから、俺はいっそうアホになってしまった。

彼女からは“猫でなくてすみません”というメッセージとともに、木彫りの熊が送られてきた。

もちろん、その熊は寝室のチェストの上に大事に飾っている。

どんなにアホになろうと、俺とてわかっている。

そう、これらはすべてゲームの世界での出来事。

非日常といえば非日常。

しかしながら、互いに仕事を離れた日常といえば日常だ。

彼女が俺の日常に歩み寄ってくれた気がして嬉しかった。

また、わずかながら俺が彼女の世界を知ることを許されたような気がして。

これからもっと打ち解けられるのではないかと期待した。
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