それでも私は
「ぎゃああぁぁぁ!」
「あ、ぁ。く、来るな!」
研究員たちから悲鳴が上がる。恐怖があたりを支配する。
だが、後ろの男は恐怖していなかった。彼はただ冷静にコチラを見つめている。
ーまぁ、予想はしていたが。きっと彼は強い。弱っている今の体では確実に殺られる。弱っていないとき勝てるかどうかはまだはかりかねるが、今はそんなことはいい。どう、逃げ切るか。
1人減った研究員にゆっくり近づく。と、後ずさる研究員たち。あの黒い塊、ー元人間を蹴り飛ばして、一瞬の隙を作ろうか。きっと戦闘服の男の横は通れない。彼も何か異能力を持っているはずだ。通る前に殺されてしまうだろう。だから、研究員のいる元来た道を通って別の道から逃げよう。
落ちている腕を掴むと、ブチリ、と嫌な音とともに腕が切れた。
そして、戦闘服の男へと投げる。
「うわ、」
焦ったその声が聞こえるよりも先に走り出した。予想通り黒い霧に触れたくない研究員たちは端に避けてくれる。
悲鳴が前方から真横へ、そして後ろへと過ぎた。
後ろを軽く振り返ると戦闘服の男は相変わらず私のことをじっと見て立っているだけだった。
彼からは離れた、なのに。
「あーあ、めんどくせぇなぁ。」
間延びしたそんな声がハッキリと聞こえた。