鈴姫伝説


『そのときのことを忘れたことはない……』



ナディの声はいつもの強気な声ではなく、震えていた。




それはどれだけの悪夢だったのか……。




あたしには、分からない。




『それでも、あの瞬間……私達は呪いに抗った。




でも、生まれたばかりで力も未完成。




私達は上手く使いこなせなかった……。





そんな一瞬にあっという間に思考に悪意がのめり込んできて……私達は諦めた。




心残りは“鈴姫様”の願いを護りきれなかったことだけ……』






暗い闇のなかにナディの姿が見えるようになった。



彼女は切なそうな苦い顔で微笑んだ。



それは痛々しい笑顔で……。



つられてあたしも切ない気持ちで胸がいっぱいになってしまう。




気づけば、涙が目の縁からこぼれていた。






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