鈴姫伝説
「……」
えっ……?
気付けば、目の前に誰かが立っていた。
その人は、男性。
漆黒の色の長めの髪。
背は、あたしの頭ひとつ以上は大きくて、すらりとしている。
左右の整った顔立ち。
その肌は少し焼けているけれど、とても健康的だ。
そして何より目を引く、
力強い、澄んだ光を放つ、金の瞳……。
綺麗なひと……。
今まで出会った誰よりもカッコいい。
その金の瞳には、吸い込まれそうになる。
彼はなにもいわず、金の瞳でただあたしを見つめてくる。
な、なんなのっ!!
それ以上目を合わせていられなくて、思わず顔を下へ向けた。
顔に熱が集まってしまう。
……というか、誰なの?
「こいつは……!!」
そのとき、なにかに気づいたのか、ミューマが声を挙げる。
「……気付いていたか……」
低いけど柔らかい声音が頭上から降ってくる。
声までカッコいい……。
顔立ちにぴったりな声だと思う。
そんな風に浮かれているあたしは、もう一度顔を上げて、彼の顔をまじまじと見つめた。
「すずか!!今すぐそいつから離れるミュ!!」
ぽや~んとしていたあたしの頭は、ミューマの叫び声ですぐに現実に引き戻される。
さっきと同じように足に力を込めて、後ろへと跳ぶ。
けれど疲れていたあたしは、先程のように華麗に跳ぶことが出来なかった。
「わっ!!」
高い編み上げブーツのヒールで大きな石に躓いて、そのままドスンとしりもちをついてしまう。
「すずか!!」
痛くはないものの、立ち上がることが出来なかった。
ミューマの悲鳴が耳を鋭く貫く。
あー、もう。
なにやってるんだろう。
その間、金の瞳の彼はなにも言わず、ただあたしを見つめていた。
恥ずかしい……。
またあたしはスカートを握りしめながら、俯いた。
すると突然、辺りが暗くなって……。