鈴姫伝説
『千~?』
今日は千が遊びに来てくれる日。
いつもの集合場所となっている、裏庭の大きな木の下に来たのに、彼の姿はない。
『千?
千━━━!!』
大きな邸の中を走って探しても、彼はいない。
心の中にサァッと闇が広がった。
千!!
あたしは再び走り出した。
お願い!
無事でいて!!
必死に祈り続けた。
『あっ』
重い袿に足を捕られたあたしは、冷たい木製の床に転がった。
『痛……』
普段走らないあたしには、もう限界だった。
どこいっちゃったの?
千……。
不安が身体を支配する。
転がったまま、ぎゅっと身体を丸めた。
『大丈夫ですか?』
スッと目の前に大きな手が差しのべられた。
低い男の人の声。
誰?
恐る恐る顔を上げると、知らない男の人の顔。
『…………』
千に会えない不安と、今までにない、身体のダルさであたしはなにも言えなかった。
『姫』
男の人はあたしの腕を掴んで、立たせてくれた。