鈴姫伝説
知らず知らずのうちに、身体が震え始めていた。
『家でばぁちゃんに聞いたらよ、集落の人たち皆知ってるってよ』
え?
千を見れば、彼は肩をすくめた。
『そりゃ、ここじゃ英雄だからな。
ばぁちゃんに俺のこと言ったら、泣いて喜ばれたぞ。
「うちの誇りだ」って』
くしゃりと顔を歪めて笑う千。
そんな……あたしは、まともに外に出たことなんてなくて。
まだ15歳で。
戦いなんて勿論、武器に触ったこともない。
『あたしには……ムリだよ……』
こんなあたしには、何も出来ない。
『でも、これは俺たちにしか、出来ないことなんだろ?』
ニカッと千が笑った。
それは、眩しいくらいのキレイな笑顔。
ああ、もう。
千が笑えば、“あたしにだってできるかも”と思い込んでしまう。
『そうだね』
ムリでもいい。
精一杯やろう。
千となら、なんだって出来る気がするよ。
千の大きくて、温かい手が優しくあたしの手を包み込んだ。
千は強く、あたしの手を握りしめてくれて……。
心の奥がドキドキと音をたてた。
繋いだ手から、彼の体温があたしのなかに流れ込んでくる気がした。