鈴姫伝説
魔物の周りは冷たい空気の漂う、極寒の氷の国と化していた。
魔物は青白いガラスに囲まれ、ピクリとも動かない。
これ……あたしがやったの……?
千、千は……?
どこにいるの?
無事なの?
不安が胸をよぎって、あたしは走り出していた。
『千━━っ!!』
彼の名を呼びながら、地面からそびえ立つ氷の間を走る。
『千』
いた。
凍った魔物の前に。
肩を押さえて、うずくまっている。
『っっ!』
彼の左肩からは、真っ赤な血が流れ出ていた。
それは、氷を紅く染め、溶かしていく。
スッと頭から血の気が引いた。
イヤッ……。
やめて……!
──バリィイイン!!
あたしが気を緩めたせいか、動かなかったはずの魔物は分厚い氷を突き破った。
そして足元にいるあたしたちを潰そうと手を伸ばしてくる。
でも、千は動かない。
なんで……。
違う。
動けないんだ……!