鈴姫伝説
「どうだ? 千。
この姫が殺されたくなければ、わたくしと共に来い。
そうすれば、助けてやる」
もう視界がボヤけ始めていて、女神の声が途切れ途切れにしか耳に入ってこない。
ダメ……。
喋ろうと口を開けても、声が出ない。
ダメ、だよ。
行っちゃダメ。
行かないで……。
あたしは大丈夫だから、あの人についていかないで……。
伝えたいのに、届かない。
「…………!」
─バキバキバキ!
何かが割れて、あたしを押さえつける力が少し弱くなった。
「やめろおおぉおおッッ!」
ゴオオッと霊力が高く強く渦巻く。
千の怒鳴り声が城中に響いた。
それはビリビリとよどんだ空気を震わせる。
彼の怒鳴り声は、泣いているみたいだった。
「千……」
彼は右手に瞳と同じような金色の霊力を纏わせ、女神へと突っ込んでいく。
「くっ……!」
あまりの速さと強さについていけなかった女神は、あたしから15メートルくらい後ろへ吹っ飛んだ。
そのまま、石を積み上げてできている壁へと突っ込んだ。
壁はわずかにへこんで、けれど女神はすぐに飛び起きた。