好きより、もっと。
「カズさん、ちゃんと『彼氏の弟』としてアミさんのところに行きますよね?」
向けられた言葉の意図をすぐに理解することが出来ず。
俺は不機嫌な表情のまま、本田を見据えていた。
本田は、俺が理解していないことを敏感に察知して、再度口を開いた。
丁寧な説明と共に。
「カズさん、『兄の彼女』だからアミさんのとこに行くんですよね?まさか『アミさん』だから行くわけじゃないですよね?」
「お前何言って・・・」
「それとも、たとえ『兄の彼女』じゃなくても、アミさんのところへ行きますか?」
「・・・」
「もし、そうなら。そこにある感情ってなんですか?それが分からないまま、アミさんの所に行かないで下さい」
俺は、動けなかった。
誰よりも、何よりも。
未央を大切だと想っている。
それこそ、高校生の頃からだ。
他と比べるなんて絶対に無理なくらい、未央を好きでたまらない。
なのに。
どうして。
俺は、動けないんだ?
本田は、俺を掴んでいた手を放した。
動けない俺を見て何か言いたそうにしていたが、何も言わずにミーティングルームから出て行った。
さっき本田が言った言葉が、耳の中で木霊する。
これは、俺の気持ちなのか?
それとも。
離れてるお前の気持ちなのか?
『アミさんのこと、好きなら行かないでください。アミさんが、苦しむから』
拓海。
お前がいねぇと、俺はバランスを取れねぇみたいだ。
お前がいないとダメになるのは、何もアミだけじゃねぇンだな。
立ちすくむ俺は、この時大崎さんがアミの所に向かったことを忘れていた。
それを、俺は。
心底、後悔することになる。
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