好きより、もっと。



準備をしてマンションのロビーを抜けると、そこには車を降りてタバコを吸っている大崎さんがいた。

そして、その姿を見つけて、ある事実に気が付いた。



扉の先の上司を見つめていると、その人と目が合った。

表情を何も変えない大崎さんを見て、なんて『らしい』んだろう、と。

気まずかったのも忘れて、吹き出してしまった。




「わざわざ、すみません」


「別に。打ち合わせしないと、どうしようもないだろう」


「はい。本当に、申し訳ありませんでした」




深々と頭を下げ、誠心誠意謝る。

今の私出来るのは、たったそれだけのことだ。


けれど、これを出来るようになることが『成長』だと知っている。


大崎さんはフッと息を吐くように笑い、私の頭に軽く手を乗せた。

その手は爽やかな香水の匂いなんてしていない。

焼け焦げたタバコの匂いがしていた。




「反省してるなら、いい。打ち合わせ、行くぞ」


「はい」




返事をして乗り込んだ車の中は、とても心地よい温度に設定されていた。





車を走らせてから、大崎さんは一言も発しなかった。

私も、どこで打ち合わせをするんだろう、という疑問がありつつも、それを聞くことをしなかった。

それは、そんなことよりも聞きたいことがあったからだ。




「大崎さん」


「なんだ?」


「いつからいたんですか?私の家の前に」


「あぁ」


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