好きより、もっと。



想定内、とでも言いたげな声で返事をする大崎さんは、本当にいつも通りだった。

会社で見せるそのままの大崎さん。

厳しい顔も、優しい顔も。

男らしい表情ばかりのこの人を前に、緊張しなくなったのはいつからだったかな、と考えていた。




「知りたいか?」




真っ直ぐ前を見つめて、大崎さんは少しだけ甘い声を出す。

その声は、女を虜にする声だ。

悪い男が、使う声、だ。




「知って、ますよ」


「ほう」


「電話をくれる前から、いてくれたことくらい」


「なんでわかる?」


「大崎さんだからです」




言葉足らずだったかな?



大崎さんが車の外でタバコを吸うのは、座っているのが嫌になった時だ。

車から降りて外の空気を吸うと『また運転したくなる』と言っていた。

そしてそれは、車を止めて二十分以上経たないとしないことだと知っている。




つまり。

二十分以上、其処にいてくれたということだ。

だから言ったのだ。



『大崎さんだから』だと。




「そうか」




何を聞く訳でもなく、大崎さんは返事をしてくれた。

その声が少しだけ嬉しそうだったので、私まで嬉しくなった。




「そういえば、どこで打ち合わせしますか?」


「あぁ、会社に戻るか」


「えっ、あ・・・はい」




明らかに動揺した声を出してしまったので、大崎さんは小さく笑った。

原因は自分にあるといえど、今みんなに会いたくはない。

笑われたことで、なんだかとてもいたたまれなくなってしまった。


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