好きより、もっと。
「心配すんな。他の連中には、会場への荷物任せてあるから会社にいない。直帰が絶対命令って、伝えてあるから」
大崎さんの絶対命令は、本当に『絶対』なのだ。
何故かわからないけれど、大崎さんには逆らわないという上下関係がしっかり出来ている。
まぁ、直帰しないで会社に戻って来ようものなら。
残業している大崎さんと鉢合わせて、鬼のような形相に出逢うことになる。
みんな、それだけは避けたいに違いなかった。
「そういうことなら。会社で大丈夫です」
「資料も会社にしかないしな。そこ以外では出来ねぇんだよな」
「確かに、そうですよね。じゃあ、今度はちゃんとした資料、ご用意しますから」
「おう、頼んだぞ。高田チーフ」
「了解しました。大崎課長」
くすくすと笑う私の声に、満足そうに大崎さんも笑った。
タバコに手を伸ばして運転をしながら器用に火をつける。
その仕草は、とても男の人を感じさせる仕草だと想った。
「ん」
タバコを咥えて火を付けた大崎さんは、自分のタバコを私に向けて差し出した。
まるで『俺のタバコを持ってろ』とでも言いたげに。
それを見て、私は苦笑いを零す。
「そういうのは、彼女にしてください」
私が言うと、大崎さんはもう一度ズイッとタバコを差し出した。
これは受け取らないとダメだな、と観念して受け取ると、空いた手でタバコを持って一気に煙を噴出した。
「お前、吸えるんだろ?たまには吸えよ」