好きより、もっと。
そんなことを簡単に言った大崎さんに、私の視線は釘付けになる。
だって。
私は会社の人の前で、タバコを吸ったことなど一度もない。
この七年間、ずっとだ。
なのに、なんで?
「あの・・・」
「なんで知ってるのか、とか聞くのか?」
「・・・そりゃ、聞きますよ」
「見てれば分かるさ」
そう言って、それ以上説明する気は無いようだった。
どうしたもんかな、と思いながら久しぶりに渡されたタバコに手をかける。
自分のタバコとは違うメンソールの効いたキツめのタバコ。
これが普通だよな、と思いながら、自分のタバコとは違う太いタバコを口に咥えた。
私が火を付けたのを見て、大崎さんは満足そうに車を走らせる。
二人で吐き出した白い煙が車の中に留まって、小さく開けた窓から外へと流れて行く。
「普通は女子にタバコをやめろ、って言うもんじゃないんですか?」
「言われてやめるのか?」
「・・・やめませんけど」
「そういうのはな、人に言われてやめるもんじゃねぇよ。それに、高田はやめたいと思えば自分でやめれるさ」
まるで『私のことは何でも知ってる』みたいな口ぶりに、苛々など一つもなく、むしろ可笑しくなって笑った。
吹き出した私を見て不思議な顔をした大崎さん。
その直後、私の顔を見て優しく目を細めたその表情に、私が気付くことはなかった。