好きより、もっと。
「打ち合わせは終わりですよね?大崎さん、帰らないんですか?」
「あぁ、帰るよ」
「私、もう出ますけど・・・、大崎さんはもう少し仕事しますか?」
「いや、俺も出る」
変な大崎さん。
返事がいつにも増して空返事だ。
かといって、ぼうっとしてるかと言えば、そうじゃない。
何か考え込んでるような、そんな感じ。
とりあえず帰り支度を済ませ、鞄の中に明日の資料をもう一度詰め込んだ。
今度の資料は、ミスのない完璧な資料たちの集まりとなった。
「高田。カズの兄貴がいなくて、寂しいか?」
真っ直ぐな声は、私の耳に真っ直ぐに届く。
その言葉に、不意にタクを想い出して苦しくなる。
もう、タクがいなくなって二週間が過ぎた。
時間が合わなくて、電話を掛けることすら躊躇われた。
メールでやり取りをしていても、お互いに忙しさが滲み出ていて。
寂しいと、伝えることさえ出来なかった。
大崎さんがそっと振り返る。
その仕草を、まっすぐに見つめていた。
大崎さんは不敵に笑い、少し意地の悪い顔をしていた。
「そんな顔するなよ」
「・・・ほっといてください」
ポーカーフェイスなんて、私には無理だよ。
唇を噛み締めて、寂しくないって言い聞かせていないと、泣いてしまいそうだった。
笑っているつもりなのに、頬の筋肉は驚くほど固くて。
いつもみたいに笑うことが出来なかった。