好きより、もっと。
「行ってこいよ」
「え?」
「行ってこいよ。逢いたいんだろう?」
「でも、仕事が―――――」
「そんなもんはな、」
私の頭の上の手が、動いていたのが止まる。
そして、さっきまで乱暴に動いていたその手が、とても優しい手つきに変わる。
それは、この人がいかに女慣れをしていて、扱い方を知っているかを表しているようだった。
それなのに、嫌悪感など一つもなかった。
むしろ。
ほんの少しだけ、本当に少しだけ。
離れないで欲しい、と想わせるくらい、心地よい触れ方だった。
「残ってる連中に任せればいいんだよ」
「でも、明日が終わっても仕事は詰まってるじゃないですか」
「一日くらい、どうってことない」
「・・・私が、いなくても大丈夫ですもんね・・・」
有り難い反面、いなくてもいい、と。
暗に言われる優しさは、苦しかった。
「勘違いするなよ」
私のぐしゃぐしゃになった髪の毛は、いつの間にか綺麗に整えられていて。
鎖骨を少し越えたくらいの髪の毛を、一束だけ手に取り、パサリと落とされた。
滑り落ちたのは自分の髪の毛なのに、何か二人の間の隔たりを無くされたかのような気持ちになった。
「高田がいないと仕事は大変なんだよ。高田しか気が付かないことが多すぎてな。カズはなんだかんだ細かいトコを高田任せだし、他のヤツだって何かあれば高田を頼るだろ?」
「そんなこと―――――」
「あるんだ」
遮らないで下さい。
何も言えなくなるじゃないですか。