好きより、もっと。
「お前が必要なんだよ」
ゾクリと背中を何かが伝った。
大崎さんの声が、本気を伝えてくれた。
この人の『必要』という強い言葉が、私の気持ちを突き動かしてくれた。
その優しい目線から、目を逸らすことが出来ないくらいに。
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「ありがとうございました」
「あぁ、別に。じゃあ、明日頼むな」
「はい。本当に、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
結局、『家まで送る』と言って聞かない大崎さんの車に乗せられていた。
助手席でもう一度深く礼をして、もう一度自分のふがいなさを謝った瞬間。
その頭に優しい手が乗せられた。
顔を上げると、とても穏やかな顔をした大崎さんがいた。
それに応えるように笑って、私は車を降りた。
「何かあったら連絡しろ」
「はい。でも、もう大丈夫です。心配性ですね」
「まぁな」
「ありがとうございました。おやすみなさい」
「あぁ」
そう言って、大崎さんはギアをドライブに入れた。
走り出すのかと思って待っていても動き出さない。
その車を見て軽く首を傾げる。
窓は空いているので、大崎さんに声をかけようと口を開いた。
と、ほぼ同時に、大崎さんがこちらを向いた。
その表情は。
暗さの中でも分かるほど『獲物を狙う顔』をしていた。
「おやすみ、亜未」
そう言った私の上司は、颯爽と車を走らせた。
私は。
不覚にもあまりの甘い声に、顔を真っ赤にしてその場に立ち竦んでいた。
あの声は、私に向けられたものだ。
女を誘惑し狩りをする。
獣みたいな、あの人の本能の声だった。