好きより、もっと。
通勤ラッシュをすり抜けて、カズの待つイベント会場へ向かう。
大崎さんの言葉が胸に突き刺さってるけど、現場をこのままにしておく訳にもいかない。
葛藤を抱えたまま、助手席で流れる景色を見つめていた。
飛行機の予約時間は、九時。
今日は、タクの所へ行こうと思っていた火曜日だ。
カズに協力してもらって、タクは今日休みを取っている。
カズと未央ちゃんが遊びに行く、と言ってあるらしい。
そこに、いるはずのない私が一人で現れる、という寸法だったのだ。
そんなサプライズの準備も虚しく、私は現場に向かっている。
カズにはJRの中から連絡を入れた。
朝イチの電話だったのに、カズはたったワンコールで出てくれた。
『俺が現場もスタッフも何とかするから、お前は拓海の所へ行け』
そんなカズ言葉を無視してJRを飛び下りたのは、自分自身だ。
私は、私の意志で現場に向かっているんだ。
「代わりのスタッフ、見つかるかなぁ」
「菊池さんの代わりが務まる子なんて、そうそういないですよ?」
「だよねー。どうしたんだろ、菊池ちゃん」
仕事用の携帯で電話帳を検索する。
今日のスタッフは、私が入社してからずっと勤務してくれているスタッフさんで。
主婦なので、ずっとうちのイベントの手伝いをしてくれている。
連絡が取れなくなるような子じゃないので、何かあったのでは、と。
そればかりが頭の中を巡っていた。