好きより、もっと。



拓海は、アミに言いたいことがあったのに。

どうせいつものポーカーフェイスで『なんでもない』みたいな仮面を被ってたんだろう。




アイツも不器用だからな。

言いたいことはいつも腹ン中に溜めこんで、結局自分でなんとかしようとする。

そんなことするから、いつも燻ってることに気付かない。




アイツは俺の分身なんだ。

だからわかる。

誰より自分の欲望に正直で、自分の思い通りにしたい、って考えてる事が。



結局俺たち兄弟は我が儘なんだ。

欲しいものは、手に入れないと気が済まない。

手に入らないものは、最初から欲しくなかったフリをする。




どうしようもなく滑稽だけれど、それが俺たちなんだ。

そんなんだから、俺に未央を攫っていかれるんだ。




俺は未央を手に入れた。

そして、拓海は未央を諦めた。




最初から、俺が手に入れるが当たり前のように、あっさりと未央を諦めやがった。

そうではないことに、俺が気付かないとでも思ったのか、あの馬鹿は。




だから、今回は諦めないで欲しい。

兄貴には、頑張って欲しいんだよ。

幸せになって欲しいんだ。

俺の分身だから。




拓海がどんな決意でいるのかも知らずに、アミはいつも通り仕事をこなしている。

お前にとっても、人生の分かれ道になるんだ。



逃げにないで、向き合ってくれよ。



そんなことを考えながら、打ち合わせの部屋を後にした。




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