好きより、もっと。
「あなたのスタッフが、理由もなく休むはずがないでしょう?何があったの?」
お見通しだ。
自社のスタッフ並に、私のこともお見通しだなんて。
切れ長で力のある目は、どれほどの洞察力を持っているのだろうか。
一呼吸おいて、ゆっくり笑う。
尾上さんに心配をかけてはいけない、と。
心の中で自分の気持ちを静めていた。
「実は、スタッフが交通事故に遭ったようで、先ほどご家族の方から連絡がありました。幸い、意識もハッキリしていますが重傷のようで。本日は私が、代役を務めさせて頂きます」
にっこり笑った顔のまま、小さく礼をする。
隣で冷たく私を見つめたまま、カズが小さく息を呑んだ音がした。
尾上さんは、目力を弱めることをせず私を見つめている。
顔を上げると小さく頷いた尾上さんと目が合って、トンと優しく肩を叩かれた。
「それは頼もしいことです。スタッフの方が心配でしょうが、こちらとしては高田さんが担当してくれるなら願ったり叶ったりだ。本当に、お任せして良かったです」
「そう言って頂けるのが、一番嬉しいことです」
「水鳥(ミドリ)嬢にも、伝えておこう」
「ありがとうございます。では、私は準備にかかりますので。最終リハまでには戻ります」
小さくお辞儀をしてその場を後にする。
後ろからついてくる足音は、無視をしようと決めた。