好きより、もっと。



そんな言葉を吐きながら足をブラブラと動かしているから、全然説得力がない。

イベント業界では、足の怪我は致命傷なので心配になってカズの足を覗き込んだ。


それとほぼ同時にカズに腕を掴まれ、無理やりカズと目線を合わせるように持ち上げられてしまった。

間近でみるカズの顔は、あまりにタクに似ていて。

思わず唇を噛み締めていた。




「おい、コラ」




とてつもなく機嫌の悪い声を、何の感情も浮かばない顔で吐き出す。




あぁ。

ほんとに、この人は。

拓海の弟なんだ、と実感する。




「カズ、腕痛い・・・」


「ちゃんと俺を見ろ」


「見てるじゃない。ちゃんと」


「俺を通して、拓海を見るんじゃねぇよ」




カズはそのまま私を抱き締めた。

私は、包んでくれるその腕の感覚がタクのものではないと実感して、カズを突き飛ばした。

思い切り突き飛ばしたのに、カズはなんてことない風にもう一度私を抱き締め直した。



今度は、抵抗なんて出来ないくらいの力で。

その腕の力がとても強くて。

この人はタクではないのだと、もう一度思い知らされた。




「や・・・」


「聞こえねぇよ」


「ヤダ、カズ・・・。離してよ・・・」


「離さねぇよ。ちゃんと俺の話を聞くまではな」




タクと違う匂いで、タクと違う感覚なのに。

やっぱりどこかタクに似ていて。

とても泣きたい気持ちになった。




今は、仕事のことだけ考えたいのに。

それをさせてくれないカズを、少しだけ恨めしく想った。

それと同時に、私の淋しさを敏感に感じる優しさも与えてくれた。


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