好きより、もっと。
「時雨さん・・・」
「どうして、此処に・・・?」
「驚いたでしょう?尾上さんから電話あってね。暇だし現場見に行こうかな、って思ってたら『現場出れるか?』って言われちゃったから来てみたの」
其処に立っていたのは、尾上さんの会社でバリバリ働いていた社員の人だった。
アシスタントとしてとても優秀だったその人は、子供が出来て現場を退いた。
かれこれ四年前になるだろうか。
それでも、たまに現場に顔を出して現役バリバリに仕事をする姿がとても素敵な人なのだ。
うちの社長がまだ尾上さんと一緒に働いていた頃に、社長と比べられても遜色のなかった唯一の人なのだ。
「ご無沙汰してます。お元気そうで何よりです」
「藤澤君も高田さんもお元気そうで。高田さん、大変だったね。私で対応できるならMC変わるから、しっかり振休使って」
「そんな・・・っ!時雨さんにお願いするほどじゃ――――」
「大崎君がね」
どうして、此処で。
大崎さんの名前が出てくるの?
時雨さんから出たその名前に、大きく反応したのは私だけではなかった。
カズの発するオーラが明らかに怒りを含んでる。
何故わからないけれど、ピリピリするほどの気配を放つカズを見て、時雨さんが困ったように笑った。
「水鳥さんに事情を話して、許可取ってくれたのよ。『どうしても高田を休ませなくてはいけない』って。だから、尾上さんは高田さんが到着する前に全部知ってたの」