好きより、もっと。
時雨さんの言葉に、カズと二人で顔を見合わせた。
私達が慌てている中で、大崎さんは社長に連絡をして根回ししてくれていたということ?
まだ分からないことが多すぎるけれど、時雨さんに向き直る。
時雨さんは頷いてゆっくりと私の言葉を待っていた。
「・・・全部、ですか」
「そう。スタッフがどんな状態かも、高田さんが『どうしても』休みを取りたいことも、他の女性社員が動けなくて人員がいないことも。知ってて高田さんに聞いたのよ。意地が悪いから、うちの部長」
「いえ、そんなことは・・・」
「高田さんがどんな反応するか、見たかったんでしょうね。仕事には私情を挟まない人だから、協力会社だろうと容赦ないのよね」
「それは、良く存じてます」
「でしょうね。で、高田さんから出てきた第一声が『大変申し訳ありませんでした』という謝罪。嬉しそうな電話が来たわ」
自分としては当たり前のことだ。
何より、社長の『失敗したら素直に謝る』という社訓を破る訳がない。
其れの何が、そんなにもお気に召したのだろうか。
疑問符の浮かんでいる私をよそに、カズがふっと小さく息を吐いた。
まだ少し苛立ちを残したまま笑うカズを見上げる。
私に戻ってきた目線は、なんとも優しい瞳だった。
「ようするに、尾上さんは高田を試した、ってことですね」
「そうなるかな」
「私用の休みで呼び戻されて、スタッフのトビという言い訳もある。その言い訳を最初に言ってくるようなら、時雨さんに現場を任せる必要もない、と」
「そういうことだね」