好きより、もっと。



「尾上さん」


「高田さん、そんな顔をしないでください。高田さんの仕事をとても信頼していますから」


「いえ、それでも。本当に申し訳ありませんでした。本来であればこちらで何とかしなくてはいけない部分を、尾上さんの会社に任せてしまうなどと・・・」


「いいんですよ。協力会社ですが、そのうち傘下に入ってもらうつもりの会社です。高田さんはうちの社員も同然ですから。気を付けて、行ってきてください」


「尾上さん・・・、ありがとうございます」




しっかりとお辞儀をして、大崎さんと一緒に尾上さんに挨拶を済ませる。

尾上さんが現場に戻る後姿を見送って、もう一度大崎さんが私の手を引いた。


そのことに文句を言っても離してくれるつもりはないようで、手を引かれたまま会場を後にした。


会場の入り口すぐ近くには一台の車が停まっていて。

ついこの間も乗ったその車は、大崎さん個人の車で社用車ではない。




「乗れ」


「なんで社用車じゃないんですか?」


「いいから乗れ。話は後だ」


「大崎さんっ!!」




私の声は大きく響いたが、そのことに大崎さんは何も感じていなかった。

それどころか。

有無を言わせぬ強い目線で私を見つめていたけれど。

それに怯む程、私だって馬鹿じゃない。




「仕事で迎えに来たわけじゃないからだ」


「・・・大崎さんに、そこまでしてもらう理由がありません」


「あればいいのか?」


「え・・・」


「理由があれば、お前を迎えに来てもいいのか?」




真剣な目は、少しだけ切なそうに伏せられた。

翳ったその顔を見ることが出来なくて目を逸らすと、大崎さんは運転席に乗り込んだ。



動き出さない車に観念して助手席のドアに手を掛ける。

ドアを開けると、そこは大崎さんの気配が充満していた。


噎せ返るほどのこの人の気配に、何か特別なものを感じて息が苦しくなった。


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