好きより、もっと。



「息子が羨ましいか?」


「娘も可愛いですよ」


「いつか手放すために育てるのは、切ないよな」




意地の悪い質問が飛んでくると思っていたのに、核心をついた切ない問いかけが降ってきて、俺は櫻井さんへと目線を映す。

少し先を歩く我が子と最愛の人を見つめるその人は。

独身の時よりも優しさが増し、どこか背負っていたはずの影が薄れたように感じた。

横顔からにじみ出る幸せがある。

一人の時は、周りに線を引き踏み込ませない印象があったその人を、大きく変えたのは時雨さんだ。

結婚したことにより魅力が増す男の人。

それを体現しているような櫻井さんに、俺は見惚れずにはいられなかった。




「お前は、子供が生まれてから『父親』になり過ぎてるんだな」


「・・・そうですかね」


「高田に対する感情は『愛情』だ」


「・・・」


「でも、『恋愛感情』とは違う。それはきっと『父性』と呼ばれるものなんだろうな」




この夫婦は。

俺の事情を横流しするのは止めてほしい。

どちらかに話せば、どちらかに伝わる。

以前から知っていたことだったが、今、身を持って感じることが出来た。


加えて。

二人とも自棄に周囲に敏感なもんだから、タチが悪いったらありゃしない。

普段ならイライラが募るようなこの言動も。



何故だか、この人からだと思うと不快に思わない自分に、少しだけ苛立ちを感じた。


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