好きより、もっと。




二人を見送った後、現場の片付けが全て終了したのは夜の八時少し前だった。

思ったよりも時間がかかってしまい、アミに電話をするには少し遅くなったが、まぁいいだろう。



イベント会場を出て社用車に乗り込んでからアミの番号をリダイヤルする。

未央の番号よりもアミの番号の方が探しやすいのは、仕事の付き合い上、仕方のないことだ。


今頃。

タクに見送りをしてもらって、出発ロビーで泣いてるんだろうな。

アイツ、意外と泣き虫だから。




櫻井さんが言った『父性』という言葉は、今の俺にピッタリの言葉だった。

俺のものにしたい訳ではなく、ただ傍で見守ってやりたいだけなんだ。

けれど、他の男のものにしたい訳でもない。

唯一、拓海にだけは任せてもいいと思えるほど、大切に想っている『友人』なのだ。

いや。

『友人』と言うにはあまりに近くにいすぎる存在で。

『家族』と呼ぶにはまだ少し遠い存在なのだ。



亜未を幸せに出来るのは拓海だけで。

拓海を幸せに出来るのは亜未の他にいないだろうと予感している。

いつか家族になるアイツを、今は一番傍で助けてやりたいと想う俺の気持ちは、『恋愛感情』からは一番遠い感情だと考えていた。




――――――プルルル、プルルル――――――




そんなことを考えながら受話器に耳を当てていたので、結構な時間呼び出しをしているはずなのに。

アミが電話に出ることはなかった。


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