好きより、もっと。
直線距離、800km。
移動時間、六時間。
滞在時間、十分。
逃げ出すなんて馬鹿なことをした、って。
そんなの自分が一番分かっているけれど、あの場で逃げ出さずにいられる程、私は強くなんてなかった。
私は、タクにたった二週間逢えないくらいで仕事も手につかなくなるくらい駄目な彼女なのだから。
大見栄を切ってタクを信じて待ってるって言ったのに信じきれない自分が、本当に情けなくて。
泣くことも出来ず、ただ空港まで行って飛行機に飛び乗ったんだ。
新千歳空港に着いたのは夜の七時半。
行って帰ってくるだけでこんなにも時間を必要とする程、タクは遠くに行ってしまった。
逢えないことだけが、辛い訳じゃない。
距離と一緒に心までもタクが離れて行ってしまうんじゃないかという不安の方が、辛い。
「結局、私・・・口だけなんだな・・・。ふふっ」
笑った自分の声は、非道く乾いていた。
こんな笑い方、絶対に笑ったうちに入らないのだろうけれど。
預けるような大きな荷物もないまま飛行機に乗った私は、手荷物を受け取るためにレーンに並んでいる人達を横目に到着ゲートをくぐった。
仕事鞄だけを持った自分はなんだかとても惨めだった。
仕事をしているであろうカズに助けを求める訳にもいかず。
心配してくれている未央ちゃんにこれ以上迷惑を掛けたくない、いや、タクのことで何かを頼りたくないという気持ちが勝ち。
タク本人に電話を掛ける勇気など、今の私には一欠片も残っていなかった。
俯いたままゲートをくぐり、JRの駅へと続くエレベーターの方へ顔を向ける。
その時、ぐんっと強く腕を引かれた。
その手は大きく骨ばって、お世辞にも綺麗とはいえない、無骨過ぎる大人の男の手だった。