好きより、もっと。
「お前、なんでここにいる?」
「な・・・んで・・・?大崎さんこそ、どうして・・・?」
「来週の新フロアイベントの打ち合わせだ。下見で今、駅までの経路確認してたんだよ。終了後の混雑を見越して、安全確認も兼ねてるんだ」
「あ・・・。そうでしたね、お疲れ様です」
『あぁ』と言った大崎さんは、仕事の声で答えてくれた。
それなのに、私の腕を掴んでいる手の強さは仕事をしている時とは懸け離れた強さだった。
その手の強さは、私を駄目にしてしまう強さだ。
縋り付きたくなどないと想えば想うほど、この強さに惹かれてしまう自分が嫌だ。
何より、『この手がタクであればどんなに幸せだろう』と想像して勝手に落胆する自分が、本当に嫌だ。
掴まれている手を振りほどこうと力を入れると、それに応えるように力を強める大崎さん。
目を合わせることなく掴まれている腕を凝視する私を、とても強い視線が射抜いている。
そんな視線を感じていると、急に掴まれてた腕ごと大崎さんの目線まで引き上げられた。
つられるようにして自分の目をそこに向けると、とても真剣な顔をした大崎さんがいた。
仕事の顔でも獲物を狙う顔でもない。
初めて見る大崎さんの表情に、何故だか目を逸らすことが出来なかった。
「お前、どうした?」
「え・・・」
「てっきり俺は、ギリギリまで向こうにいるんだと思ってたんだ。カズの兄貴に逢って、それで元のお前に戻っていれば、それでいいと思ってたんだ」