好きより、もっと。



真剣な眼差しに『返事をしない』という選択肢が通用しないことはわかっていた。

けれど、私の口から言葉が零れ落ちることはなかった。

そんな私の様子をじっと見つめながら、大崎さんは辛抱強く待ってくれていた。




到着で賑わってきたロビー。

口々に幸せそうな出迎えの声と、到着の報告が行き交う場所。


そのロビーの隅でこんなにも追いつめられている気持ちになるために、此処に帰って来たわけじゃない。

唇を噛み締めていないと涙さえ我慢できなような想いをするために、タクのところへ行ったわけじゃない。

真剣な大崎さんに縋り付いたら楽になれるのだろうかと、二人を裏切るような考えに気付きたかったわけじゃない。



色々な気持ちがごちゃ混ぜになっていて、何を口にしても泣いてしまうのが分かっていた。

今の私に唯一出来ることと言えば。

せめてタク意外の人の前で泣かないようにと、必死に涙を我慢することだけだった。



ふっと零れるように大崎さんが優しく笑う。

それは、タクや数を見慣れている私でも見惚れてしまうほど、人を惹き付ける笑い方だった。




「俺の前で泣くのは、そんなに嫌か?」




確かめるように一言一句、ゆっくりと私に問いかけてくる。

そこには、純粋な問いかけ以外の意味など微塵も含まれておらず。

真っ直ぐ私からの言葉を待ってくれる大崎さんが、私だけに向けてくれた優しさを感じた。




大切にしてくれている、と。

伝えてくれるような、とてつもなく真っ直ぐな声を受け止めた瞬間、目頭が熱くなって視界が歪む。


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