好きより、もっと。
どのくらいそうしていたのだろう。
やっとの思いで涙を止めて頭を上げる。
頭が重く視点が定まらないけれど、なんとか前を向くことが出来た。
目線の先には、雲一つない、夕闇と夜の間みたいな空が見える。
随分と現実味のない景色に、笑うことも泣くことも諦めてただ目を向けていた。
目を瞑り、ふぅと小さく息を吐き出すと、空港に着いた時よりも幾分か気持ちが楽になっていた。
その時、ガチャリと後部座席のドアが開いて大崎さんが顔を出した。
「少し気は済んだか?」
困ったような素振りは無く、むしろ優しすぎる表情をした大崎さんは、確かめるように私に問いかける。
言葉を発する気力の無い私はコクンと頷いて見せた。
「そうか。じゃあ、これ持ってろ。すぐ戻ってくるから、その後送ってやる」
車の鍵を私の手のひらに乗せて握らせるように両手で私の手を包む、無骨な男の手。
好意に甘えたくない、と心のどこかで叫んでいても、今はそれが言葉になることはない。
無言を肯定と受け取ったのか、手を伸ばして私の頭をぽんと抑える。
そのまま優しく閉められた車のドアの音を聞いて、そういえば大崎さんの車の中にいるんだったな、と自分の状況を把握した。
車の中の時計は午後八時少し前で、二十分以上も泣き喚いていたのか、と自分自身に呆れた。
思考回路の止まった頭で何とか思い出したことは、カズに任せたイベントがもう終わっている時間だということ。
そして、イベントが終われば、カズは間違いなく私に電話してくるであろうことを思った。