好きより、もっと。
こんな状態で電話に出ることなど出来ない。
けれど、電源を切ってしまうのも何か違う気がして、サイレントモードのまま鞄の中にしまい込むことにした。
その行為が拓海とカズに対して後ろめたい行為のような気がしてしまったけれど、それ以外にどうすることも出来なかった。
携帯電話は確かに便利なものだ。
そして、今やなくてはならないものだけれど、こんなにも軽い小さな塊が今の私には重い。
簡単に繋がることが出来る分、本当に相手と繋がっているのかを確認するのは難しい。
言葉だけでは、伝えられないことが多すぎる。
自分の中に沢山の想いはあるのに、それを『想っている』だけでは誰にも認めてもらえないことが苦しかった。
「・・・何してるんだろう、私・・・」
ぽつりと零れた自分の言葉に、乾いたように笑った。
今、此処にいることがとてつもなく馬鹿げたことのように感じられて、笑う以外のことが出来なかった。
大崎さんの車の中で大崎さんの香りに包まれながら、拓海と和美から逃げるように此処にいる。
ただの上司である大崎さんを自分の辛さを誤魔化すために利用している私は、なんて浅ましいんだろう。
どこかで知っていた。
大崎さんが優しくしてくれることを。
泣いている私を、大切にしてくれることを。
知っていて縋ってしまいたいと考える自分の心の弱さに気付いて。
心底自分を嫌いになった。