好きより、もっと。
鳴っては止まり、止まっては鳴ってを繰り返し。
三度目のカズからの着信に出るのを躊躇っていると、会社用の携帯電話を取り上げられてブチッと切られてしまった。
「――――っ!!何を――――」
「なんで出ない?カズの電話に出られないような何かがあったのか?」
「・・・何も、ありません。あっても、大崎さんには関係のないことです」
何とか絞り出した自分の声は、明らかに『何かあった』と伝えているような声だった。
強がっていることは自分が一番分かっているけれど、それでもこの人に伝えるべきことでない、という判断くらいは出来る。
『関係がない』とハッキリ言葉にしておかないといけない気がした。
拓海と私の間に問題が発生することが、この人にとって『関係のあること』になってしまうということは。
この人から向けられている好意が『部下』として向けられているものではないと、認めるに等しいことだ。
そんなことを認める余裕など、今の私には絶対になかった。
「・・・ふざけるなよ」
男の人特有の、人を怯えさせるためにあるような低い声で、大崎さんは小さく呟いた。
声は小さかったはずなのに私の耳にはしっかり過ぎる程届いていて。
怯えたように肩を揺らせば、少し乱暴な力で無理矢理目線を合わせる体勢にさせられていた。
近すぎる距離に抵抗して何とか大崎さんを押しやろうと力を入れたところで、その手を掴まれてしまう。
ドサッと大きな音を立てて鞄が落ちるのと同時に、後部座席の肘置き越しに左手を引かれ前のめりになり、もう片方の手をそこに付いた。
私を掴んでいる右手ではなく、もう片方の左手でもう一度私の頬に触れる大崎さん。
その力は優しいものではなかった。
強引に向かされるその力に、私はただ従うしかなかった。