好きより、もっと。
「関係があるかなんて、どうでもいいだろ」
目の前の人は、真っ直ぐで熱っぽい瞳の大人の男。
余裕の顔をして女の扱いに慣れた、ハンカチにアイロンをかけてくれるような人が近くにいる、そんな人。
尊敬する上司であり、憧れとする社会人でもある、その人。
『魅力的』以外のどんな言葉でこの人を表現するのが正しいのか分からないこの人に、私は絶対に捕まってはいけない。
捕まらない自信があった二週間前とは違う。
捕まってしまうかもしれない、という心の隙が、つい数時間前に出来てしまったからこそ。
絶対にこの人に捕まりたくなどない、と、心の底から想った。
「お前がそんな顔してるのが悪い」
「そんな・・・っ!ほっといて下さいっ!」
「ほっとけないから言ってンだ!!」
声を張り上げた大崎さんの顔は真剣そのもので、私が理解をするまで離してくれるつもりなどないと、その顔が言っていた。
逃げたくて仕方がないのに、その目に見つめられると逃げてはいけない気持ちになるのは何故だろう。
どうにもならない気持ちはいつも涙になって溢れてきてしまう。
その涙を流してなるものか、と唇を噛み締めようとした時、唇を親指で押さえつけられた。
力を入れることが出来なかったことで、私の涙は簡単に溢れてしまった。
「そんな風に泣くくらいなら、やめちまえよ」
「な、にを・・・」
「カズの兄貴なんてやめて、俺にしろよ」