好きより、もっと。
「雪江さん、うちの上司も反省しているようですし、良ければ迎えに来てやってもらえませんか?」
『どうしてあたしが?もうええ大人なんどすから、自分で帰れるでしょうに』
「それが、今日俺の弟が来るんですけど、会うって言ってきかないんですよ。雪江さんが来てくれたら大人しく帰ってくれると思うんですけど・・・」
『もう。藤澤はんに迷惑かけて。仕方のない人どすな。わかりました、住所を教えて頂けます?』
住所を伝えてると『すぐにはいけない』という申し訳なさを含んだ声が返ってきた。
雪江さんも忙しいようで、今から準備をしてお店に顔を出してからなので昼の三時くらいになる、とのこと。
今日はお休みだそうなのだが、夜のお客様のために手紙を書いておきたい、ということだった。
仕事熱心でお客様第一のその精神が、どことなく亜末に似ているなと思い微笑ましい気持ちになる。
『ゆっくりで大丈夫です』と伝えると優しい返事が返ってきたので電話を切り、まだ不安そうな顔をした廣瀬さんの方を向いた。
「何やってンすか」
「・・・うるせー。雪江さん、なんて?」
「迎えに来てくれるそうですよ。優しいじゃないですか」
「どーせ兄貴に言われたんだよ。『明日拗ねてるだろうから、頼む』って」
こんなに拗ねた三十六歳を見たのは初めてで。
その姿は俺の長男心をくすぐるような、しょうがないな、という気持ちにさせるような表情だった。