好きより、もっと。
「お店に寄ってから来てくれるそうですよ。雪江さん、今日休みなんですね」
「あの人、基本火曜日が休みだから」
「それを知ってるのに、なんで俺ン家に来たんです?お店が終わるまでいたらよかったじゃないです?」
「・・・兄貴の前で、そんなことしたくないね」
どんなプライドだ、と思ったが、確かにカズも俺の前でそんなことをしなかったなと思えば。
弟としては当然の行動なのかもしれないな、と思って笑った。
どう足掻いても雪江さんが来るまで家に居座るであろう上司を見つめて、溜息を吐く。
この調子じゃ、カズ達が来るまでに帰ってくれることはないだろうな、と腹を括って『ご飯食べます?』と声を掛けた。
少し申し訳なさそうにしていたが『悪いな』という声と共に目線がこちらを向いて、目が合う。
俺が笑うと、少し安心したように廣瀬さんも笑っていたので、それでいいような気がしていた。
「雪江さん来るまでいていいですよ。それまでには弟夫婦も来ると思うんで、みんなで飯でも行きますか」
「いいのかよ?お前の弟、そんな予定じゃないんだろ?」
「文句は言いませんよ。ただ、廣瀬さんが驚くだけですけど」
「驚く?何に?」
「俺の弟、双子なんで。しかも一卵性双生児なんで」
ぽかんとした廣瀬さんの顔を見て、俺は可笑しくなって吹き出してしまった。
顔全体で『は?』と言われるのには慣れているが、この上司の間抜けな顔は初めてだったから。