好きより、もっと。
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「来ねぇな」
「そうですね。何してんだろ・・・」
――――――ピンポーン――――――
昼を過ぎ、夕方に差し掛かった頃、自宅のインターフォンが鳴った。
時間を見ると既に三時半を過ぎていて、予定よりもかなり遅くなったんだな、と心配になりながらインターフォンを確認する。
其処に立っていたのは、カズではなかった。
仕事場とは少し雰囲気の違うその人は、仕事場にいる時以上に落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
「遅くなりました。涼二はんのお迎えに上がりました」
「あ、雪江さん。お待ちしてました。今開けますね」
「あの・・・えらい申し上げにくいのどすけど、今一人で歩けなくて。下駄の鼻緒が突然切れてしもて、此処まではなんとか来られたんやけど・・・」
「大丈夫ですか?すぐに降りるので待っててください」
「ほんまに申し訳ありまへん」
俺と雪江さんのやり取りを聞いていたのに、雪江さんのところへ行こうと動きもしない廣瀬さんを見て、呆れた笑いを浮かべる。
さっきまで意気揚々としていた人とは思えない行動に、小学生の頃のカズを思い出して吹き出してしまった。
俺に笑われたことが気に入らなかったのか、それとも俺が雪江さんを迎えに行くのが気に入らないのか分からないが『何笑ってンだよ』という刺々しい声を出す、廣瀬さん。
「俺、迎えに行ってきますから。そのムクれた顔をなんとかしといてくださいよ」
『ムクれてねぇよ!』という声が追いかけて来るのを無視して、俺は玄関へと足を向けた。
雪江さんに会ったら態度も変わるだろう、と考えながら、不自由そうにインターフォンを押した人の下へと急いだ。