好きより、もっと。
「どうかしましたか。そないにじっと見て」
「あ、いえ・・・」
「どなたか想い出す人の香りでもしましたか?それとも、ちゃう香りがして余計に逢いたい人を想い出しましたか?」
図星だった。
抱き締めた肩の感触と桜の香の匂いに、想い出したのは全く別の『大切な人』。
他の女の匂いに反応して想い出すことを亜未はとてつもなく嫌がるだろうけれど。
それでも、想い出す。
子供みたいに汗をかいているのに、太陽みたいな優しい香りのする人。
大人の女みたいな甘い匂いをさせているくせに、子供みたいに素直に笑う、その人。
離れれば離れただけ、輪郭が鮮明になりその身体のカタチと香りを深く想い出す。
クソッ。
こんな風になってるところを、他の女に見せるハメになるなんて。
サイテーだ。
ありえねぇ。
「あら、そないな顔をして。あたしには見られたくなかったどすか?綺麗な顔が台無しどすよ」
「雪江さん、趣味が悪いですね。人をからかって面白がるなんて。廣瀬さんとイイ勝負だ」
「あんな坊さんと一緒にしないでください。綺麗な顔を綺麗と言っているだけなのに、そないな顔せんといてください」
俺よりもずっと大人の女の人は、からかうように俺の頬を撫でた。
その仕草は俺に対する好意など欠片もなく。
人の気持ちに土足で踏み入って来る図々しさを含んだ触れ方だった。
抱きかかえる腕を離すわけにもいかず、俺は仕方なく顔を背けることでそれを凌いだ。
くすくすと楽しそうに笑う雪江さんを睨みつけるように見つめると、それすら予想通りという顔で深く笑ったその人がいた。