好きより、もっと。



いつ来てもいい様に部屋の片付けをし、可愛い可愛い姪のために布団も用意をしたのが夜の七時半を過ぎた頃だった。



カズと未央のことだ。

携帯を鞄の中に入れっぱなしにしたまま飯でも食いに行って、そろそろ向かうって頃に連絡をしてきてもおかしくないはずだ。

アイツらは自由奔放で、俺はいつもそれに振り回されてたんだったな、となんだか懐かしくなった。


廣瀬さん達には申し訳ないが、今日は合流出来そうもない。

そのことに断りを入れて、俺も一人で夜飯を済ませていた。


心配から呆れに変わったのは夕方の五時を過ぎた頃で、その頃には自分の家が宿代わりにされるんだな、という予想さえついた。

家族揃っての旅行はカズにとっては貴重な時間だ。

いつも忙しいカズが、唯一仕事を気にせずいられる数少ない時間なんだ。

そんな時に、いくら心配しているとはいえ、俺と一緒というのも微妙に思ったんだろう。



実際問題、俺がカズの立場なら、そうする。



双子の思考を読むことは、どこか確信めいたものがあり。

可愛い弟のためなら仕方がないかと諦めたのだった。




いいよな、カズは。

俺だって亜未と一緒に旅行してぇよ。

今日飛んで来てくれるのが、亜未ならいいのに、と。

何度考えたと想ってンだよ。




カズと亜未が一緒に休みを取れないことを知っている俺は、悪態をつきながら亜未を想った。

目を瞑れば想い出すことが出来る程、亜未の輪郭が明確になったのは、雪江さんのせいだ。




クソッ。




――――――ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッ――――――




やっと電話が鳴ったのは八時を過ぎた頃で。

そのディスプレイに映る『藤澤和美』の名前に、仕方のねぇヤツ、と溜息を吐きながら通話ボタンを押した。






その電話の内容は。

俺を動揺させる以外の何物でもなかった。





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