好きより、もっと。
「拓海。俺、嘘吐いてたんだ」
『は?何が?』
「俺は今日、お前のところに行く予定なんかなかった」
『・・・マジかよ。何考えてンだ、お前。俺に休みまで取らせて』
「でも、アミはそっちに行った」
『・・・は?』
「今日は、アミがお前に会いに行ったんだ」
電話口からは何の気配もしなくなり。
小さく漏れるような音が聞こえてくる度、アミの名前を呼んでいるんだろうな、というのが分かった。
動揺する自分の兄に対して聞きたいことは山ほどある。
状況を確認するために、俺も小さく深呼吸をする。
目の前に迫った社用車に乗り込み、エンジンをかけて窓を開ける。
落ち着きを取り戻すために必要なものは時間なんかじゃなかった。
何故か無意識に売店で購入した、緑色をしたこの煙草だった。
火を点けて息を吹き出す。
白い煙が窓の外に溶けていくのを見つめながら、小さな雲が月に近づいて行くのを見ていた。
「拓海、本当にアミはそっちに行ってないのか?」
『・・・あぁ。メールや電話は何も来てないし、直接家に来たならインターフォンを鳴らすだろ?今日の来客は上司とその知り合いの若女将だけだ』
「っていうか、お前。女を家に上げたのか?」
『不可抗力だ。上司の連れだから仕方なく家に上げたんだ。好きで家に入れたわけじゃない』
「だよな。そう簡単に、お前が女に心を許すハズないしな」
『お互い様だろ』