好きより、もっと。
「じゃあ、何か?もしアミが十三時の飛行機に乗ってお前の所に向かったなら、その訳の分からねぇ女と一緒にいるのを見たかもしれない、ってことか?」
『あぁ・・・。その人、着物で来てたんだけど、鼻緒が切れたらしくてエントランスまで迎えに行ったんだ。体制崩しそうになったから、とっさに手を出して掴まえたんだよ』
「・・・お前、何やってンだよ。ちょっと油断しすぎなンじゃねぇの?」
『雪江さんはそんなんじゃねぇよ』
「・・・じゃねぇよ」
『・・・ンだよ』
「名前で呼んでンじゃねぇよ。十分気を許してンじゃねぇか」
『は?だから、そんなんじゃ――――』
「確かに新しい環境でキツイのもわかる。お前がアミから離れて平気じゃないのもわかってる。でもな。お前がいた空間がそのままの状態で、お前だけがいなくなった日常にいるアイツは、もっとしんどいに決まってンだろ』
「・・・」
『アイツが弱音を吐くようなヤツじゃないのは、お前が一番知ってンだろ?』
タクは黙った。
反論が出来ないわけではないのに、こうやって冷静ぶって俺の話を聞くところが、俺を余計に苛つかせる。
それでも、これが俺の片割れのいいところでもある。
相手の話を最後まで聞く辛抱強さと、自分の考えを少しでも整理しようと言い聞かせる自制心がコイツにはある。
「拓海。お前、アミに会えよ。すぐにでも逢いに行ってやれよ」
わかってるんだ。
コイツもアミに逢いたいと思っていることくらい。
それでも逢いに行かないのには必ず理由があって、今は着任したばかりの仕事を投げ出すことが出来ないという責任感ゆえ、というのも分かっていた。