好きより、もっと。
「――――ッテェ・・・」
加減も忘れて噛み付いた大崎さんの唇からは、ジワリと広がる様に鉄の味がした。
痛さに力が緩んだ隙をついて大崎さんを突き飛ばすと、唇の端からゆっくりと血が滲んでいくのが見える。
その血を自分の親指で拭う姿は、さっきまでの強気な姿とは裏腹の悲痛な表情に見えた。
エレベーターがポンと到着の音を鳴らして停止する。
その音にさえ怯える私の姿を見て切なそうな目がこちらを向き、また一瞬で表情を戻す。
表情の変化に気付いて油断した私を見逃すはずもなく、不意を付いて今度は容赦のないキスが襲ってきた。
「――――ッ!・・・やぁッ・・・」
油断していた私に強引に押し入ってきた、大崎さんの存在を明確にする深い口付け。
足の力が抜けそうなほどの甘さと自分が噛み付いた傷口から流れる血の味。
自分の恋人ではない人なのに脳が痺れるような刺激を受けて、一瞬、思考回路が停止する。
それを見計らって、エレベーターからほど近い一室のドアへ向かって手を引かれ、一瞬でその中へと引き込まれてしまった。
私を抱えるようにして後ろ手に鍵を閉めた大崎さんは、さっきまでの強引さではなく、触れていいのか悩むように私の頬に手を寄せる。
真っ直ぐ見つめるその瞳を見ていることが出来なくなり顔を背けると、そっと頬を撫でられた。
その手の感触に驚いて顔を上げれば。
見たこともない情けない顔をした大崎さんが其処にいた。