好きより、もっと。
促されて座ったリビングのソファーはとても柔らかく、二人並んで座るとフワリと沈む。
その反動で大崎さんは私を引き寄せて腕の中に閉じ込めた。
強引さなんて欠片もない腕の力。
優しさ以外の何も伝わらない温度。
本気で心配をして、私をあやしてくれるその手に、自然と涙が治まっていくのを感じた。
しゃくり上げていた呼吸が治まると、そっと私から離れてキッチンへ向かった。
コーヒーメーカーに何かをセットする音と食器を出す音が響く。
コーヒー豆が挽かれる香ばしい香りがして、小さく深呼吸をした。
改めて部屋を眺めると、そこはとても落ち着いた雰囲気の部屋だった。
シックな茶色の木目で統一されたデザイナーズマンションは、この人そのものみたいな存在感を放っている。
綺麗に片づけられたキッチンとは対照的な、少し乱雑にものが置かれたリビング。
目に入る雑誌は経済紙からファッション誌まで物凄い量が置かれている。
仕事熱心な大崎さんらしい部屋で、整い過ぎていないことが余計安心感を与えてくれる気がした。
「亜未」
なんの違和感もなく私の名前を口にした大崎さんは、幾分か元の表情に近づいていた。
タクが真剣な顔をして私を呼ぶ時と同じ響きの呼び方をした大崎さん。
少し緊張して大崎さんのいるカウンターキッチンへ目線を向けると、同じように少し緊張した様子でこちらを伺っていた。