好きより、もっと。
「その代わり、俺は此処にいるからな」
「・・・ですよね。変なことしないでくださいよ」
「さぁな。それは、相手次第だ」
嫌な予感しかしないが、ついさっきまでの緊迫したムードや流されてしまいそうなムードはどこかへ行ってしまった。
こういう所が、とても大崎さんらしい。
大崎さんはどんな場所でもどんな空気でも、言葉を発するトーンと言葉の選び方で大崎さんの思う通りの空気に変えることが出来る。
どんな雰囲気であっても自分の色に変えることが出来るというのは、大崎さんの持っている特殊能力だな、と思った。
私の隣に大崎さんが座ると、ソファーがふわりと沈む。
距離の近さにまじまじと顔を見つめてしまったけれど、大崎さんは柔らかく笑うだけでそこから動こうとはしない。
まさかこんな至近距離にいる状態で電話を掛けるハメになるとは思ってもいなかったので、呆れた顔をしたまま溜息を吐いた。
そして、目を背けて立ち上がろうとすると、その手をグッと引かれた。
何となく予想していたその力に体制を崩すことなく立ち上がったが、意地悪く笑った大崎さんはもう片方の手も添えて両手で私の手を引いた。
しっかり立ち上がっていたにも関わらず、予想外の力に驚いてソファーへと逆戻りすると。
あっさりと手を離してじっと私を見る大崎さんと目が合った。
あくまで『自分の隣で電話をしろ』という姿勢を崩さないでいるが、私だって『はい、そうですか』と電話をするわけにはいかない。
彼氏との電話をするのに他の人に触れそうな距離にいることは、どう考えても異常な距離だと理解していた。